TikTokを中心に、小説の魅力を届け続けるクリエイター・紙上健吾。
動画をきっかけに本が重版されるなど、出版業界にも影響を与える存在となっている。
なぜショート動画で本が売れるのか。発信と継続の裏側に迫る。
■まずは10本、試してみることからスタートした小説紹介
――TikTokやyoutubeへの継続的な動画投稿をされていますが、何をきっかけに活動を始めましたか?
けんご:
もともとベンチャーの映像制作会社で働いていて、撮影や編集、営業などいろんなことをやっていました。ただ、SNSに対する知見があまりなかったので、勉強のために始めたのがきっかけです。
そのころは5年半も続けるつもりはなくて、「とりあえず10本くらい投稿してどんな反応が返ってくるか見てみよう」という感覚でした。
実は、いわゆる”社長アカウント”を運用したことがあるんですよ。カメラマンのスタッフが「社長!社長!」 と駆け寄って、その社長の反応を楽しむみたいなコンテンツです。今もあると思うんですけど、当時はより流行っていて一つのムーブメントになっていました。あの「社長、社長!」を最初にやったのが僕なんです。
――あのブームの火付け役がけんごさんだったとは……! 勉強のために動画投稿をスタートしたとのことですが、最初の投稿で意識していたことは?
けんご:
どうしたらバズれるかは考えましたね。自分が好きなミステリー小説を紹介するのもよかったんですけど、当時はTikTokのユーザー層が若かったので、著名人の作品や若い世代に刺さる作品のほうがいいかな、と。
考えた結果、高山一実さんの『トラペジウム』を紹介しました。そうして、最初はライト文芸作品を中心に紹介していくと、自分の想像の何十倍、何百倍もの反応がありました。
――動画が伸び始めてから、気持ちの変化はありましたか?
けんご:
出版社から「動画をきっかけに重版しました」と連絡が来て、「自分の発信で本が売れるんだ!」 と衝撃を受けました。
10日間くらいで活動に対する熱量が一気に上がって、「これはやりがいがあるし、社会的意義もあるかもしれない」と思い本格的に取り組むようになりましたね。
■顔出しで語る理由。“この人の言葉”にするために
――けんごさんの動画は言葉に合わせて表情の変化、身振り手振りを加えたスタイルが印象的です。現在の動画スタイルはどのように決めたのでしょうか?
けんご:
手元だけ映すとか自分が出ない形も考えました。でも、どうせ発信するなら顔を出して自分の言葉で話したほうが、信頼性が高いと思ったんです。
あとシンプルに、そのほうが楽なんですよね。構図などを細かく考えなくていいので、編集がしやすいので続けやすい。
――同じように顔出しをするスタイルで紹介系の発信をする方も増えてきていますよね。再現性についてはどう考えてますか?
けんご:
よく「このフォーマットでやれば伸びる」みたいなのあるじゃないですか。フォーマットを真似ることは悪いことではないですけど、実際に伸びるかどうかは別だと思っていて。
――というと?
僕が制作した動画で200〜300万回再生された台本を他の人が全く一緒の内容で制作してもも同じ数字にはならないし、逆も同じです。その人にしか出せない雰囲気やトーンがあるので、例えフォーマットが一緒でも”似て非なるもの”だと思っています。

■「数字だけじゃない」。ショート動画の価値と試行錯誤
――発信をする中で意識していることはありますか?
けんご:
トライ&エラーですね。ショート動画は数を打てるので「これはダメだった」「これは良かった」を繰り返しやすい。
長尺動画1本とショート動画10本くらいの労力はあまり変わらないので、その分検証できる回数が増えるのは大きいです。
――継続していると数字が良いときもあればそうじゃないときも必ずありますが、検証していくと考えるとポジティブな面がたくさん出てきそうですね。その中でもクリエイターとしてどう数字と向き合っているか教えてほしいです。
けんご:
昔はかなり数字を気にしていました。でも今は、例えいいね数が少なくても、その動画を見て一人でも本を買ってくれるなら価値があると思っています。
一人でも本を買ってくれたら業界に貢献できているわけなので、目の前の数字だけにとらわれすぎないことは大事だと思います。
――数字にとらわれすぎない……。頭ではわかっていてもなかなか難しいことだと思います。なにか継続のモチベーションに繋がっていることはあるのでしょうか?
けんご:
人とのつながりは大きいですね。業界の方やクリエイター仲間との関係があることで、辞める理由がなくなります。
あとは、最初の2年間ほとんど収益がなかったんですが、それでも続けられたのは小説を紹介する活動が好きで、楽しかったからです。
忙しい中でも動画を作り続けられたのは、”好き”と”やりがい”があったからだと思います。
■発信を仕事に繋げるための努力
――発信を仕事につなげるためには何が必要だと思います?
けんご:
まずは知ってもらう努力が必要です。バズっていても、その動画をクライアントが見ていなければ意味がない。
厳しい言い方になりますが、仕事につながっていないということは、業界の人に届いていないということです。
――特にクライアントに自分を知ってもらうためにはどんなアクションが必要なのでしょうか……?
けんご:
SNSを活用して公式にメンションしたり、自分の存在をアピールすること。
そして、オンラインだけでなくオフラインのつながりもすごく大切です。実際に出版社の方に会いに行ったり具体的な提案をしたり、会話を重ねることで関係を築いていく。
オンラインで知ってもらい、オフラインで信頼を積み重ねる。この2ステップが重要だと思っています。

■小説紹介のその先へ。業界との関わり方を広げる
――今後はどのような発信や活動をしていこうと考えていますか?
けんご:
動画投稿は引き続き力を入れていきますし、むしろ今年に入って投稿本数は増えています。
それに加えて、出版業界への関わり方も広げていきたいです。本ができる前の段階からプロモーションを一緒に考えたり、帯の内容を検討したり、そういった部分にも関わっています。
――出版前の本を出版社や著書の方と一緒に創っていくということですね。けんごさんの手が加わることで、どんな本ができていくのか楽しみです! 新しい取り組みも始めたと聞いたのですが……。
けんご:
ショートドラマ形式で本を紹介する取り組みを始めました。まだ投稿は10本ほどですが、かなり反応が良くて、今後さらに伸ばしていきたいです。
自分の紹介では届かない層にも届けられる可能性があるので、ここは強化していきたいと思っています。
■「気持ち」がすべてを決める
――最後に、今まさに発信や制作に向き合っているクリエイターへメッセージをお願いします。
けんご:
正直、最後は気持ちだと思います。伸びている人は、その活動に対してかけている時間や熱量が圧倒的に多いです。
トライ&エラーを繰り返して続けていけば、必ず結果はついてきます。
一番難しいのは続けることですが、やめなければ可能性は残り続けます。
人の投稿を見て学びながら、一緒に頑張っていきましょう。

一人でも本を買ってくれるなら、それが業界の未来に繋がる。
紙上健吾【けんご📚小説紹介】は、本の新しい届け方を模索し発信している。
プロフィール

けんご📚小説紹介【紙上健吾】
1998年生まれ。福岡県出身。動画クリエイター。
SNSで小説の紹介動画を投稿。短尺で的確に小説の魅力を伝える紹介動画は、幅広い年齢層から絶大な支持を得る。紹介動画の投稿後に、たちまち重版した書籍は多数。SNSの総フォロワー数は110万人以上。著書に『けんごの小説紹介 読書の沼に引きずり込む88冊』など。
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