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AI時代に求められるのは“不揃いさ”──しんのすけが語るTikTok動画論

――しんのすけが語る、発信の原点と“個性”の大切さ

2019年からTikTokで発信を続けてきた、映画感想TikTokクリエイターしんのすけ。映画感想をきっかけに現在のスタイルを確立し、今では映画やアニメを中心に幅広いエンタメを届けている。試行錯誤の末に見つけた自分らしい発信の形や、伸びる動画の考え方、そしてこれから取り組みたいことについて聞いた。

■TikTokを始めた理由と、映画感想を投稿するようになったきっかけ

インタビュアー:TikTokで映画を発信しようと思ったきっかけは何ですか?

しんのすけ:
これは本当に何でもない話なんですけど、始めたのが2019年で、その当時、TikTokだけ何も知らなかったんです。YouTubeとかTwitterとか、インスタはなんとなく知っていたんですけど、TikTokのことだけ本当に何も知らなくて。調べても当時はあまり情報が出てこなかったので、これは自分でやるしか勉強できないなと思って始めたのが大きな理由でした。

もう一つは、当時専門学校で講師をやっていて、SNSとか動画プラットフォームのことを学生たちに教える授業もやっていたので、講師の立場で何も知らないのはまずいなと思って始めた、というのもあります。

それがそもそもTikTokを始める理由で、実際に映画感想みたいなものを投稿するきっかけは、ちょうど2019年の夏でした。学校の授業で、夏休みの課題を考えようという話になって、学生全員に「何かしらのゴールを一つ設定して、それをクリアできたかできなかったかを夏休み明け最初の授業で報告してほしい」と伝えたんです。YouTubeチャンネルをやっている子なら「再生回数何百回を超える」とか「チャンネル登録者数何人超える」とか、それぞれ自分で課題を作って報告しよう、という内容でした。

でも、学生たちだけにそんな無茶振りをするのはよくないなと思って、僕も同じ8月の1か月で何かしら課題を設けて、それをクリアできるかできないか、何でクリアできたのか何でできなかったのかを報告し合う場に自分も参加することにしたんです。

そのとき自分の課題にしたのが、「TikTokを始めて、TikTokで1回でもバズらせる」というものでした。たまたまそのときバズったのが、映画の感想だったという感じです。

黒い服を着た人物が、話しながら手振りを交えている様子。背景には本やマンガが並んでいる。

■最初は“きれいな映像”で勝負したけれど、全然伸びなかった

インタビュアー:今の発信スタイルにたどり着くまでに、どんな試行錯誤がありましたか?

しんのすけ:
最初にバズったのは映画感想だったんですけど、8月の前半はまったく違うことをやっていました。僕はもともと映像制作の仕事をしていたので、すごく美しい映像とか、海の波が砂浜でスローモーションで揺らいでいるような映像を撮れば、当時TikTokはダンス動画ばかりだったので、「こんなプロっぽいきれいな映像が流れてきたら一発でバズるだろう」と思っていたんです。

でも、びっくりするくらいバズらなかった。本当に伸びなくて、「バズらないなあ、つらいなあ」と思いました。10年くらい映像制作の仕事をやってきたのに、このプラットフォームでは報われないんだなと、一度かなり心がくじけました。

そんなときに、たまたま映画を観て、その感想をいつも通りTwitterに投稿しようと思ったときに、「映画の感想をTikTokでやっている人ってあまりいないんじゃないか」と気づいて投稿したら、それがバズりました。

今のフォーマットが確立されたのはその瞬間だと思います。細かくアジャストはしていますが、「自分が観た映画を紹介する」という軸は最初から変わっていません。

■テーマは最新作中心、でも切り口はあくまで“個人の感想”

インタビュアー:動画のテーマや切り口はどう決めていますか?

しんのすけ:
動画のテーマは、僕は映画がもちろんメインなんですけど、ゲームとか時事ネタとか、音楽も含めてエンタメを中心に扱っています。主にやっぱり時事ネタ、最新のニュース、最新のものを取り上げることが多いですね。発売したばかりのゲームとか、公開したばかりの映画とか、それをメインでやっています。

切り口としては、自分が見て、自分がやって、面白いか面白くないか。あくまでも超個人的な視点を大事にしています。ただ、そこで自分一人の感想だけを言っても伝わりにくい部分があるので、「世の中的には面白くないと言われているけど、自分はこう思った」とか、「世の中的には面白いと言われているけど、こういう見方もあるよね」とか、そういう客観的な情報や事実も入れつつ、個人的な感想を大事にしています。

僕は肩書きとして評論家を名乗りたいわけではないので、評論ではなく、あくまで一個人の感想にとどめたいと思っているんです。なるべく親近感のある言葉を使って、普段映画をあまり観ない人とか、映画にそこまで興味がない人にも届くような言葉をちゃんと選んで動画を作る、というのがテーマであり、切り口であり、気をつけていることですね。

緑の椅子に座り、考え込んでいる人物。背景には本や雑誌が並んでいる。

■伸びる動画は“感情に訴えかける”もの

インタビュアー:伸びる動画と伸びない動画の違いは?

しんのすけ:
難しいですけど、いろんなジャンルがある中で、作品を紹介する動画に関しては、昔からなぜかグロいとか、激しい暴力描写があるとか、そういう刺激的な内容を含む作品を紹介した方が基本的には伸びやすい、というのは今もあまり変わらないなと思っています。

ただ、そればかりやっていると、そればっかりがバズるようになって、逆にそこから伸びなくなるみたいなこともあるんですよね。プラットフォームの性質というか、アルゴリズムの影響もあると思うんですけど。

その次にバズりやすいなと思うのは、とにかく感動するとか、泣けるとか、エモーショナルな部分に訴えかけるものです。だから今の感覚でいうと、やっぱり感情に訴えかける動画作りをすると伸びやすいなと思います。

有名人が誰が出ているとか、主題歌が誰だとか、そういう情報よりも、その作品を観たり聞いたりプレイしたりすると、どんな感情になるのか、何を得られるのか。そっちをちゃんと説明した方が動画としては伸びるのかなと思っています。

逆に、伸びない動画は何かというと、正直あまり分からないです。今は何が伸びるか本当に分からない時代ではあるんですけど、それでも一番よくないのは中途半端な動画だなと日々思っています。

ちょっとだけ編集するとか、ちょっとだけうまい編集をするとか、そういう中途半端なことをすると、本当に何も起こらない動画になることが多い。どうせやるなら、超荒削りな方が絶対伸びるし、無加工な方がもちろん伸びるし、逆に「加工しすぎだろ」というくらい振り切っている動画の方が伸びたりもする。

思い入れのある動画は『オッドタクシー』、そしてクレヨンしんちゃんとの仕事

インタビュアー:印象に残っている動画は?

しんのすけ:
たくさんあります。アニメ映画も、テレビシリーズのアニメもたくさん紹介してきましたし、一番最初に投稿した動画もアニメ映画なんですけど、その作品タイトルはちょっと秘密で。気になる方は遡ってみてください(笑)。

そのうえで、思い入れのある紹介動画として一つ挙げるなら、『オッドタクシー』の紹介動画ですね。僕は『オッドタクシー』がすごく好きなんですけど、観たタイミングが放送時期から半年後くらいだったんです。盛り上がっていたのは知っていたけど、リアルタイムでは観ていなくて、たまたま時間が空いたときに一気見したら、とんでもなく面白かった。それで、その勢いのまま感想動画を作りました。

そしたらその感想動画が、びっくりするくらい伸びたんです。アニメ界隈で流行っていたタイミングとは完全にずれた時期だったんですけど、プライムビデオのランキングに突如『オッドタクシー』が現れて、「どこから何が起こったんだ」みたいな感じでランキングが大きく変動したらしくて、それが僕の動画でした、とだいぶ後になって別の人から言われたんです。

自分の発信が、ただコメントが来るとかだけじゃなくて、ランキングにまで影響するんだ、というのはすごく印象に残っていますし、自分がやっていることは楽しいなと思えた記憶として大きいですね。

もう一つは、僕は“しんのすけ”という名前で活動していて、本名も齊藤進之介なんですけど、小さい頃から『クレヨンしんちゃん』が大好きなんです。いつかクレヨンしんちゃんの仕事がしたいなというのは、TikTokを始める前からずっと思っていて、まさか映画の現場の仕事ではなく、TikTokを始めたことでクレヨンしんちゃんと一緒に仕事ができるようになるとは思っていなかったので、とても嬉しかったです。

アニメ『オッドタクシー』の紹介画像、背景に夜の街並みが描かれ、登場人物が立っている様子が見える。
『オッドタクシー』の紹介動画

新作だけでなく、旧作を紹介する強さもある

インタビュアー:
『オッドタクシー』のように、盛り上がっているタイミングではない作品の感想を投稿されたとのことでしたが、新作だけでなく、旧作を取り上げることも多いのでしょうか?

しんのすけ:
めちゃくちゃあります。逆に言うと、『オッドタクシー』の動画はまさにそうで、時期がずれていて新作ではないものだったんですけど、今から作品紹介の動画を投稿しようと思っている人は、新作よりも旧作の方が打率は高いと思っています。

それはなぜかというと、人気作を紹介した方がコメントが集まりやすいんです。「この人はどういう見方をしているんだろう」とか、「にわかなんじゃないか」とか、もともとのコンテンツのファンが見てくれる可能性が高い。それに、「前から気になっていたけどまだ観ていない」という人も絶対にいるんですよね。自分みたいな人間が1人でも2人でも確実にいる。

だから、アニメ界隈で話題作だったものを、さらに外に広めていくという意味では、旧作を紹介するのはとてもいいと思っています。普通に考えたら、新作の、まだ誰も観ていないものを紹介するより、すでに話題になっていて、しかもいつでも観られるものを紹介した方がリアクションはいいですよね。その感覚は当時からありました。

背景に漫画とフィギュアが並ぶ本棚の前で話している若い男性

TikTokを続けてきて、「やっていて良かった」と思うこと

インタビュアー: TikTokを続けてきて、「やっていて良かった」と思うことは何ですか?

しんのすけ:
たくさんあるんですけど、さっき話したクレヨンしんちゃんと動画を撮れた、というのはもちろん大きいです。それに加えて、去年はトム・クルーズに会うことができたり、ブラッド・ピットに会ったり、僕は小さい頃からジョニー・デップが大好きで、『シザー・ハンズ』とか『パイレーツ・オブ・カリビアン』を観て育ったので、そのジョニー・デップにインタビューできたりもしました。

自分がこの活動をやっていなかったら、どう考えても会えなかった人たちなので、そういう意味ですごくやっていてよかったなと思います。

それと今は、もともと僕は映画が好きで映画の現場にも行っていたんですけど、今はチームでアニメとか映画とか本とか、自分が好きなものやチームのメンバーが好きなものを、もっとたくさんの人に知ってもらう活動をしています。今までは自分のアカウントだけでやっていたことを、小説を紹介するけんごくん(紙上健吾【けんご📚小説紹介】)とか、アート紹介クリエイターの耳で聴く美術館のAviさんとか、教育系動画クリエイターのあきとんとんとか、動画クリエイター・文筆家のゆっけさん(酒村ゆっけ、)とか、いろんなメンバーと一緒にやることで、一人では届かなかった層にちゃんと届けられるようになってきた。

お世話になっている業界だからこそ、業界と手を取り合ってやらなきゃいけないこともたくさんあると思っていますし、僕自身も、どちらかというと作品を作る側の人間だったので、「届ける」「宣伝する」という意識があまりなかった人生が長かったんです。でも、次はそっちの立場でやっていく、そのことを仕事としてちゃんと一緒にやっていけるのが今はとても楽しいです。

このアニクルという媒体を始められたのもTikTokのチームのおかげですし、自分がやっていることが、自分の好きなものにちゃんと還元できている実感がある。それが「やっていて良かった」と思う大きな理由ですね。

今後は若手監督の支援や、映画現場の環境改善にも関わりたい

インタビュアー: 映画というジャンルで発信する中で、今後やっていきたいことは何ですか?

しんのすけ:
今も少しずつやってはいるんですけど、もっと若手監督を応援したいなと思っています。特に、面白い作品を作っている人たちをちゃんと応援したい。誰でも彼でも、ではなくて、やっぱり面白いものを作る人を応援したいんです。

具体的には、僕のアカウントだけではできないことがたくさんあるので、インタビューコンテンツとか、そういう露出の場をちゃんと作っていきたいと思っています。自分のアカウントだけだと、どうにでもなる場所とも言えるので、やっぱりメディアみたいなオフィシャルな場所で活動報告ができるとか、露出の場をちゃんと作ってあげることが、クリエイター支援になるんじゃないかと思っています。

それが一つと、もう一つは映画の現場についてです。僕はもともと映画の現場にもいたので、現場の声を直接聞くことが多いんですが、どうやってもっと効率よくAIを使って事務作業とか面倒なことを簡略化できないか、と最近よく考えています。簡略化できるツールを作れないか、ということですね。

労働環境の改善も含めて、そういうことも広い意味では若手を育てることにつながると思うので、映画を生み出してくれる側の支援も、もっと今以上にやっていきたいです。

フォロワー数より、一つひとつの動画の面白さが大事

インタビュアー: いま頑張っているTikTokクリエイターに、一番伝えたいことは何ですか?

しんのすけ:
一番伝えたいのは、あまりフォロワー数は関係ない、ということです。もちろんフォロワー数が多いから仕事が来る、ということもありますけど、2025年くらいからは「フォロワー数が多いからこの人に頼もう」という時代ではだいぶなくなってきたなと思っています。

それよりも、出している一つひとつの動画の面白さで仕事が来る時代になってきています。AIで無尽蔵に動画が作られる時代でもあるので、そこでAIに勝つにはどうしたらいいかと考えたときに、動画の中にムラがあって、ムダがあって、個性があって、きれいではない、不揃いなものがちゃんとあることがとても大事だと思っています。

だから、きれいにしすぎないこと。素材をどう活かせるか、その素材というのは自分自身のことだと思うんですけど、自分という素材をどうやって最大限に活かせる動画を作れるのかが、とても大事だと思っています。

なので、みんな方言を大切にしていきましょう、ということを強く言いたいです。自分の個性をちゃんと大事にしてほしいですね。

プロフィール

フリルの付いたシャツを着た男性がカメラを見つめている。背景は明るい室内。

映画感想TikTokクリエイター
しんのすけ

1988年、京都府生まれ。映画感想TikTokクリエイター。映像作家、専門学校講師。京都芸術大学映画学科卒業後、東映京都撮影所入社。時代劇ドラマ『水戸黄門』助監督として業界入り。2014年に拠点を東京へ移し、映画『HiGH&LOW』シリーズ等の助監督を経て18年独立。19年夏よりTikTokで活動開始。映画レビュージャンルを開拓し人気を集める。
現在は監督業を始め、ジョニー・デップらハリウッド俳優へのインタビューも行う。TikTok TOHO Film Festivalで三池崇史監督らと審査員を務める。
著書に『シネマライフハック 人生の悩みに50の映画で答えてみた』。
⚫︎TikTok ⚫︎X(旧Twitter) ⚫︎Instagram

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